症例紹介

肩の疾患

ここでは患者さま自身に自分の疾患について理解していただけるように日常私共がよく診察する11の肩疾患についてご紹介します。各疾患を理解していただくうえで必要な肩関節の解剖を用語とともに解説しています。参考までに当院に在職した医師が行った論文もあわせて掲載しています。開院以来肩疾患で手術を受けられた患者さまの一万件以上に及ぶ資料はすべてデータベース化され、これらに基づいた臨床研究を国内外で発信しています。

解剖

肩甲骨の受け皿(関節窩)は上腕骨頭に比べて小さく、骨頭の約1/4程度しか被覆しませんが、受け皿(関節窩)を縁取るようにして存在する関節唇は膝の半月板みたいな役割で、受け皿の深さを50%増加させ、関節を安定させています。特に脱臼により前下方の関節唇が損傷するとバンカート病変と呼ばれ、反復して脱臼する原因とされています。他に、腱板、関節包、靭帯で構成されています。四つのインナーマッスル(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)があり、その腱成分が上腕骨付着部近くで関節包と一体化し腱板と呼ばれています。棘上筋腱と肩甲下筋腱の間には、腱板疎部と呼ばれる隙間が存在します。これにより、回旋時腱板間の軋轢は軽減されますが、反対に負担がかかりやすいともいえ、スポーツ等で急激な回旋により同部が離開することがあります。インナーマッスル上には肩の屋根のような形をした肩甲骨肩峰から三角筋と呼ばれるアウターマッスルがあり、正常な肩では両者の間にある滑液包がクッションの役割をしてインナーとアウターマッスルはスムーズに動きます。この滑液包に炎症や癒着が起きると痛みや動きの制限が起こります。

上腕骨の周りに4つのインナー(肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋)が位置します。小円筋は後ろに位置してみえません。この上にアウター(三角筋)がありますがこの絵では取り除いています。

文献

  • Nobuhara K, et al. Effects of joint distension in shoulder diseases. Clin Orthop 304: 205-209, 1994.

肩関節周囲炎(五十肩)

五十肩では関節の袋(関節包)が縮小し関節の動きが制限されます。50歳代を中心に40〜60歳代に多くみられ、正式には肩関節周囲炎と呼ばれます。衣服着脱の際肩を捻るなど軽微な外傷がきっかけに起きることがありますが、きっかけがはっきりしないこともあります。原因ははっきりと決められませんが、私共は腱板疎部を傷めることが多いのではないかと推測しています。多くは上腕部の痛みを訴えます。運動時痛と夜間痛が特徴的で、昼間の安静時には比較的疼痛は少なくなっています。初期には前方にみられた痛みは最終的には後方に移動していく傾向があります。特に側挙(体の横に腕を挙げる動作)、捻る動作、結帯動作(後ろポケットに手を入れる動作)などが制限されますが、さらに関節が固まるとすべての方向に運動制限が出現します。片側に起こることが多いですが、しばらく経過した後反対側に症状が現れることもあります。症状に応じて急性期(痛みが強く、安静時痛や夜間痛に悩まされます)、慢性期(痛みは徐々に軽減しますが、強い可動域制限が残ります)、回復期(可動範囲も回復していきます)の病期に分かれます。

五十肩では関節包が縮小しています。さらに縮小すると腕も上がらなくなります。

検査

レントゲン、MRIなどを行いますが、これらを用いて石灰沈着がないか、腱板断裂がないかなど他の診断を除外します。MRIでは腱板疎部の線維化、関節包の肥厚を認めますが、このような所見はこの病気特有のものではなく他の疾患でもみられます。

治療

注射やリハビリにより可動域を回復させていくことが主だった治療になりますが、急性期には鎮痛剤やステロイドの注射などにより痛みをやわらげるようにします。無理な可動域訓練は避け軽い訓練にとどめます。慢性期、回復期に移行していくに従い訓練を強めていきます。保存療法を第一に考えますが、強い制限が続く場合は全身麻酔をかけ授動術を行うこともあります(数日程度入院が必要になります)。

文献

  • 池田均 “Rotator Interval” Lesion. 日整会誌60: 1261-1273, 1986.
  • Nobuhara K, et al. Rotator interval lesion. Clin Orthop 223: 44-50, 1987.
  • Nobuhara K, et al. Contracture of the shoulder. Clin Orthop 254: 105-110, 1990

肩結合織炎(肩こり)

頸椎と肩甲骨にかかる筋肉が緊張するわけですから頸椎、肩疾患いずれの問題でも肩こりは起こり得ます。症状は体調、体質、姿勢、周りの環境など色々な要素により増幅されます。人間が二本足で起立し、上肢が自由に使えるようになったために肩甲骨を含めて上肢全体が頚部からぶら下がった格好になっているため、そもそも頸部周辺の筋肉に負担がかかります。
このためはっきりした疾患がなくても起こりますが、反対に頭痛・歯痛、上気道感染や肺結核など胸部疾患、消化器不調・肝疾患、高血圧や心疾患など循環器障害、栄養不良や代謝性疾患など内科的疾患が隠れていることがあり注意が必要です。

肩甲骨を含めて上肢全体の重量が頚部からぶら下がる格好になっています。

検査

問診したうえで画像・採血等行い、まずは原因を探します。

治療

肩甲骨内上角滑液包部へ麻酔剤・ステロイド剤注射、温熱療法、マッサージ、軽い運動療法等を行います。これらは局所の循環促進と筋緊張の緩和のために行いますが、同時に姿勢の矯正や、睡眠・適度な運動・感染の予防など日常生活上の注意も考えます。

文献

  • Mimori K, et al. Relation between the painful shoulder and the cervical spine with narrow canal in patients without obvious radiculopathy. J Shoulder Elbow Surg 8: 303-306, 1999.

腱板断裂

腱が骨から剥がれてしまいます。転倒して手をついた等はっきりした外傷がある場合とはっきりしない場合があります。よって腱板は肩峰と骨頭の骨の間にはさまれる格好をしておりストレスを受けやすいことや腱が変性(加齢による変化)をきたすことが原因と考えられます。痛みは主に上腕部に訴えます。夜間痛の訴えもあり、同じ姿勢を続ける、肩を下にすると眠れないなどの症状です。ただ必ずしも疼痛があるとは限らず、筋力低下により日常生活動作の制限を強く訴えることもあります。中には急に疼痛の自覚なく自動挙上ができなくなる極端な例もありますが、程度の軽い筋力低下の例として、ハンドルを握って長く運転はできない、下のものは持てるが、物を上へ差し上げられない、等があります。

検査

経過が長いものや広範囲に断裂がある場合には骨頭が上方に移動しておりレントゲンで診断がつく場合がありますが確定診断はMRIを用います。簡易的に検査できる超音波を用いて診断をつける施設もあります。

上腕と肩峰の間は通常黒い腱板で覆われていますが白く途切れており(矢印部分)このMRIでは腱板が切れていると診断されます。

治療

腱板断裂と診断されても疼痛や機能障害が少ない場合や不全断裂では保存的治療を選択しますが、ただ完全断裂であれば自然に腱が骨に再接着することはないため積極的な治療というよりも除痛や関節機能全体を落とさないことが目標になります。投薬しながら、局注は肩峰下滑液包にステロイド剤、ヒアルロン酸を注入しながらリハビリを併用します。疼痛、機能障害の強い場合には全身麻酔下に手術を勧めます。

文献

  • Nobuhara K, et al. Surgical procedure and results of repair of massive tears of the rotator cuff. Clin Orthop 304: 54-59, 1994.
  • HashimotoT, et al. Pathologic evidence of degeneration as a primary cause of rotator cuff tear. Clin Orthop 415: 111-120, 2003.
  • Inui H, et al. Does margin convergence reverse pseudoparalysis in patients with irreparable rotator cuff tears? Clin Orthop 479: 1275-1281, 2021.

石灰沈着性腱板炎

50歳代に多く次いで40歳代、また女性により多くみられます。多くは急激な疼痛で発症します。肩周辺が腫れ、熱感を持ちます。強い痛みのため腕を動かすことが出来なくなることもあります。もともと腱板にあった石灰が表層の滑液包に破れ出たときにこうした症状が発生するとされますが、なぜ腱板に石灰が溜まるかはわかっていません。

検査

レントゲンで上腕骨頭周辺に石灰沈着が見つかれば診断は簡単ですが、消失してわからないものもあります。

レントゲンで雲がかかったような石灰巣を認めます(矢印)。

治療

急性期には、局所冷却、安静にして鎮痛剤を服用します。ステロイド剤や麻酔剤を肩に注射します。自然に吸収されることが多いですが、局麻剤を注入しながら沈着物質を吸引することもあります。症状が長引く場合は可動域訓練やストレッチなどのリハビリも行います。石灰が消失せず症状が持続する、あるいは再発を繰り返す場合には手術により石灰を除去することもあります。

文献

  • Chu WY, et al. Prognostic factors for the outcome of extracorporeal shockwave therapy for calcific tendinitis of the shoulder. Bone Joint J 99: 1643-1650, 2017.

変形性肩関節症

関節軟骨および軟骨下骨が摩耗し、関節が変形したものを指します。肩は常に荷重されるわけではないためか膝や股関節に比べ治療の対象になることが少ないとされています。一次性と二次性のものに分けられ、後者は骨折、脱臼などの外傷後のもの、腱板断裂、骨頭壊死、化膿性疾患などによるものなどが挙げられます。疼痛と運動障害を訴え来院され、レントゲンで関節の変形を認めます。一次性のものでは骨頭中央部の軟骨が摩耗し、辺縁特に下方に骨の棘(トゲ)を認め、扁平化が目立ってきます。また肩甲骨の受け皿側は後方が摩耗していきます。腱板断裂による二次性関節症では、骨頭が上方に移動し、肩峰と骨頭のすきまがなくなっています。骨頭壊死は股関節に起きる大腿骨頭壊死がよく知られていますが上腕骨頭に合併することも多く、ステロイド性骨頭壊死では6~17%、アルコール性骨頭壊死では約5%に生じます。また上腕骨近位端骨折で骨頭の栄養血管が切れると骨頭壊死を来たします。

検査

レントゲン、MRIなどを行います。

一次性関節症、骨頭下にヤギのひげのような骨棘(トゲ)を認めます(矢印)。

治療

保存治療としてステロイド剤の関節内注射や軽い運動療法が行われます。保存療法の効き目がなく強い疼痛が持続し生活動作の制限も強い場合には人工関節置換術が行われます。実際の関節を反転した格好のリバース型の人工関節(肩甲骨側に骨頭が設置されます)は腱板の機能が失われた時に使用します。

文献

  • 駒井正彦ほか. 肩人工関節置換術の術後成績の検討. 肩関節 26: 329-332, 2002.

動揺性肩関節症(ルースショルダー)

動きのある機械がそうであるように関節にも遊びがあります。こうした遊びが大きい関節の包は著しく弛緩し、骨形態もほかの肩と異なっています。外傷により脱臼・亜脱臼が起こり、その後も癖になって繰り返す反復性脱臼と混同されることがありますが、もともと体質的にゆるい、と考えていただければいいです。ただし軽微な外傷などがキッカケで、全く腕を挙げることが出来なくなるなど、症状の増悪に外傷が関係することはあります。10歳代に最も多く、20歳代がこれにつづきます。外来患者総数の4%に相当し、男女比は2:3と女性にやや多くみられます。訴えは肩から上肢にかけてだるい、しびれ感の訴えから疼痛まで多彩です。特徴的なこととして挙上位の際不安感、不安定感を訴えます。脱力させ上腕骨を下方に牽引すれば、内、外旋にかかわらず肩峰の周囲に陥凹が出現し、骨頭が容易に下方に移動します。ルースショルダーはスポーツにおいて上肢をしなやかに使える反面いったん痛めてしまうと安定感に欠けるため症状が長引いたりします。

検査

腕を挙げた状態でレントゲンを撮影すれば上腕骨頭が受け皿からあたかも滑り落ちていくかのようなスリッピングがみられます。これは後下方の低形成により受け皿の窪みが浅くなっていることが原因でCTやMRIなどで確認出来ます。

骨頭があたかも矢印の方向に抜け落ちていきそうにみえます(スリッピング)。

治療

鎮痛剤、注射などで痛みを和らげながら神経筋バランスを整えるなどのリハビリを行います。原則こうした保存療法で対応しますが、痛みや手が上がらない等の生活動作の制限が全く改善しない場合は骨切り術や関節包の縫縮術を行います。

文献

  • Kondo T, et al. Radiographic analysis of the acromion in the loose shoulder. J Shoulder Elbow Surg 13: 404-409.
  • Inui H, et al. Glenoid shape in atraumatic posterior instability of the shoulder. Clin Orthop 403: 87-92, 2002.
  • Inui H, et al. Glenoid osteotomy for atraumatic posteroinferior shoulder instability associated with glenoid dysplasia. Bone Joint J 100: 331-337, 2018.

上腕骨近位端骨折

転倒し手をつくなどの外傷により起こります。骨粗鬆症のあるお年寄りに多い骨折の1つですが若い方でも強い外力が加わると起こり得ます。

検査

レントゲンやCTで骨折の安定性やずれの程度を評価します。

上腕骨近位端骨折

治療

あまりずれていなければ三角巾などをして動かさないようにしたうえで保存的に治療します。
ずれが大きい骨折に対しては手術を行います。単純な骨折であれば骨片をつなぎ合わせますが、後に骨壊死が予想される場合は人工関節手術で対応することもあります。

文献

  • Inui H, et al. Assessment of the restriction of arm elevation after intramedullary fixation for proximal humeral fractures. Shoulder & Elbow 9: 100-104, 2017.

鎖骨骨折

鎖骨骨折は肩周辺骨折の半数を占めています。多くは転倒や転落により発生します。3等分して骨折部位を評価することが多いのですが当院では中央1/3の骨折が67%、外側1/3が30%、内側1/3は3%のみでした。

検査

レントゲンやCTで安定性やずれの程度を評価します。

鎖骨中央1/3でずれた骨折を認めます。

治療

あまりずれていなければ三角巾やバンドをします。ずれが大きい骨折に対しては金属のプレートやピンを使って手術を行います。

文献

  • Kashii M, et al. Surgical treatment distal clavicle fractures using the clavicular hook plate. Clin Orthop 447: 158-164, 2006.

リトルリーガーズショルダー

繰り返す投球動作による疲労骨折です。お子様の場合、骨末端に成長軟骨があり、これが骨に置き換わり成人の大きな骨に成長していくわけですが、骨に比べ軟骨はストレスに弱いためこの部分に発生します。10~15歳にみられます。投球時痛のあるお子様の多くは同部を押さえると痛みを訴えます。

検査

軟骨は骨とは異なりレントゲンに写らないため骨端線はすきまとして線状にみえますが、このすきまが開いているようにみえます。

骨端線の外側が開いています(矢印)。

治療

1~3ヶ月程度投球動作を禁止します。復帰後しばらくは硬球など重い球の使用を控え、投球回数を制限して、ストレスがかからないようにします。

文献

  • 川島明ほか.上腕骨近位骨端線の形状について. 肩関節 16: 84-88, 1992.

反復性肩関節脱臼

外傷で一度肩が抜ける、あるいは抜けかかるとその後も繰り返すことになります。特に若い方の場合繰り返す傾向が高く見られます。当院の資料では外来患者総数の約2%で、男女比は4~5:1と圧倒的に男性に多く、左右別にはほぼ同じにみられました。初回脱臼の受傷原因としては85%がスポーツ中の受傷など外傷歴を有する一方、外傷歴がはっきりしないのも15%に見られました。一般に腕を挙げ体の後ろにひく(車のシートベルトを取りに行くような動作)を取ると抜けそうな不安感や痛みを訴えます。

検査

レントゲンやCTでは、上腕骨骨頭の陥没骨折(骨頭が受け皿に衝突して凹みます)や受け皿前縁に骨欠損や骨片(バンカート病変、前方の関節包に引っ張られて起こります)がみられます。MRIでは関節唇の剥離が詳しく見られます。

脱臼時のレントゲン

治療

脱臼の整復後は、痛みのある間は三角巾や装具などを用いて固定を行います(手を体から離して開くようにした格好の外旋固定装具は再発のリスクが少ないとされています)。若年者では反復性に移行する可能性は高く、4~5回以上続く場合には手術を勧めます。

文献

  • Hata Y, et al. Cinearthrography of the Bankart lesion and anterior capsule elongation. J Shoulder Elbow Surg 5: 124-131, 1996.
  • 橋本淳ほか. 反復性肩関節脱臼に対するPutti-Platt変法の長期成績. 肩関節 22: 533-535, 1998.
  • Inui H, et al. Modified Putti-Platt procedure for recurrent anterior shoulder instability. Int Orthop 44: 1123-1129, 2020.

肩鎖関節脱臼

鎖骨骨折、肩関節脱臼とならんで頻度の高い肩の外傷であり、当院の統計では男性に多く(男性8割、女性2割)、約半数が30歳以下であり、交通事故やスポーツ外傷がほとんどを占めます。スポーツのうち柔道によるものが3/4を占めています。9割の症例が転落や転倒で肩を打撲する直達外力が原因で生じています。疼痛、運動時通、肩挙上制限が見られます。鎖骨端は上がり、肩甲骨が下垂するため、肩鎖関節は隆起して見えます。初期に治療を受けずに時間が経過したものでは、痛みは軽減するものの肩のだるさや疲労感、筋力低下などを訴えます。

検査

レントゲンは、通常の撮影で判断することが多いですが、脱臼をよりはっきりさせるために立位で手関節に2~3kgのおもりを吊るしたストレス撮影を行うこともあります。烏口突起骨折などの他の骨傷や腱板断裂の合併もあるため、CTやMRIなどを行います。

鎖骨の端が上にはねあがっています(矢印)。

治療

捻挫や亜脱臼であれば三角巾やバンドなどの外固定を行い保存療法としますが、完全な脱臼では手術を勧めています。

文献

  • Inui H, et al. Coracoid process transfer and distal clavicle resection for chronic acromioclavicular separation. JSES Int 7:93-97,2023

手術

腱板修復術・授動術

方法

剥がれた腱を骨に縫い付けます。言葉にしてしまうとカンタンですが、実際には経過とともに腱は奥に引っ張り込まれその周辺は癒着しています。腱端に糸をかけ癒着を丁寧に剥がしながら腱を引っ張り出してきます。こうした癒着剥離の操作は断裂形態を正確に把握するために必要になるだけでなく、縫合部へ過剰なストレスをかけず再断裂のリスクを下げるうえで効果があります。また腱と骨の癒合を助けるために、傷んだ腱端は一部切り取り、骨側も表面の固い骨を削り、溝を作ったうえで縫い付けます。大きな断裂であれば剥離の操作に時間がかかるうえ、縫合糸をたくさん使い骨溝も長くなります。手術は全身麻酔下に30分から1時間程度です。当院では基本的には皮膚切開して行いますが内視鏡下の手術にも対応致しますので担当医にご相談ください。

腱端を骨溝に縫い付けます。

リスク

術後感染、再断裂のリスクはあります。また疼痛、機能障害が持続することがあります。

脱臼、亜脱臼

方法

前院長の信原克哉先生が過去の方法を参考に改良に改良を重ねた当院オリジナルの方法でNH(Nobuhara Hosptal)法と呼ばれます。肩前方を切開します。インナーマッスルのうち前方にある肩甲下筋腱を真ん中で切り、重ね合わせて短くするシンプルな方法です。再脱臼のリスクは約3%で、他の施設でよく行われている内視鏡下手術に比べ低いものになっています(ただし当院でも手術創の目立たない内視鏡下手術にも対応いたしますので希望される方は担当医にご相談下さい)。

肩甲下筋を真ん中で切って重ね合わせます。

リスク

術後感染、再脱臼のリスクはあります。また疼痛、機能障害が持続することがあります。

肩人工関節手術

方法

肩関節前方に切開を加えます。表面の三角筋(アウター)を分けて深層(インナー)を展開します。骨折であれば骨片をよけ、そうでなければインナーのうち前方に位置する肩甲下筋腱を切離して上腕骨先端の骨頭部分を人工関節で置き換えます。人工関節は通常骨頭にステムと呼ばれる棒がついており、これを上腕骨に差し込むようにして設置します。股関節に比べ周辺の骨以外の筋肉、腱、関節包などの軟部組織の要素が関節機能に大きく影響する肩関節では、先によけた骨片や筋腱(インナー)を上腕の元の位置に描着させることが重要になります。これらを修復することが不可能な症例では実際の関節を反転したリバース型の人工関節を使用することもあります。

骨折に対して人工関節手術を行いました。

リスク

術後感染、脱臼、再骨折のリスクはあります。特に感染のコントロールが困難な場合人工関節の抜去が必要になることがあります。また疼痛、機能障害が持続することがあります。

骨折(上腕骨近位端骨折・鎖骨骨折等)

骨片のずれが大きい、あるいは整復位が保持しにくい不安定な時に手術が選択されます。通常金属のプレートやピンを使って手術を行います。骨折部位や骨質、術後要求される機能など色々な要素を考慮しながら最適な方法を選択します。可能な範囲でもとの解剖学的な形をめざします。

リスク

感染するリスクがあります。細心の注意ははらいますが神経・血管損傷する可能性があります。変形を残して機能制限が残る、偽関節(骨が癒合しない)となる可能性はあります。

後療法

骨折部位、骨粗鬆症、手術時の固定性などに左右されます。手術にあたって担当医にご相談ください。

鎖骨中央のプレート固定(上)と遠位端骨折のフックの形をしたプレート(下)。フックプレートは肩鎖関節(肩甲骨と鎖骨からなる関節)も固定されるため術後挙上動作を制限します。

肩鎖関節脱臼

新鮮例に対する方法

鎖骨遠位端骨折で使用するフックプレートを用います。

リスク

術後感染、再脱臼のリスクはあります。プレートは通常3か月程度で抜去します。

後療法

術後数日から振り子運動などの簡単な可動域訓練を開始します。ただ日常生活では安静を保つため3週程度三角巾を使用します。またプレートにより肩鎖関節は固定される格好になるためプレートが抜去されるまでの期間は90°以上の挙上は制限します。

受傷から数か月経過した陳旧例に対する方法

フックプレートによる対応は難しいため筋腱付きの骨移植術を行います。鎖骨の遠位端を展開し、鎖骨の遠位端1~2cm、関節円板を切除します。筋肉をつけた状態で烏口突起先端の骨片を鎖骨にネジで固定します。

陳旧例に対して鎖骨遠位端の切除と烏口突起と腱の移行術(鎖骨にネジで固定)をおこなっています。

リスク

術後感染、再脱臼のリスクはあります。また移植骨が癒合せずはずれてしまうことがあるため、完全に癒合が確認されるまでは重いものを持つ等の作業は避けていただきます。

後療法

三角巾による固定は6週程度行います。振り子運動を開始した後、3週間で本格的な可動域訓練や筋力増強運動を行いますがプレート使用時と比較するとややゆっくり目になります。

前十字靭帯再建術

方法

半腱様筋腱(自分の膝の内側にある腱)を使用した内視鏡下手術を行っています。手術は膝関節を大きく開かずに内視鏡を用いて行われます。そのため、外見上(皮膚)の傷は小さいもので済みます。「自家腱」といって、自分の身体の一部の腱を取り、前十字靭帯の付着部である脛骨(すねの骨)と大腿骨(太ももの骨)にトンネルを掘り、その中に腱を通し、両端を金属などで固定します。自分の靭帯を使うため拒絶反応はおこりません。他にも膝の前にある膝蓋腱という腱を使用する方法もあります。

脛骨側はステープル、大腿骨側はボタンで固定しています。

リスク

感染、再断裂のリスクはあります。また疼痛、機能障害が持続することがあります。